ドイツ語通訳・翻訳 TOMOKO OKAMOTO

誰と結婚しても幸せになる法

訳者あとがき(誰と結婚しても幸せになる法)

「影」が愛することを教えてくれる

「『影』はかつて、私たちの人格の一部でした。ですがその『影』のもつ力が、人生にあまりにも強く、大きな影響を及ぼしたために、私たちは『影』を鎖につなぎ、追放しました」

 人間はみな心の中に「影」をもっています。心理学では、私たちが幼少期や思春期につらい体験をし、そのことがきっかけで閉ざしてしまった心の部分を「影」と呼びます。いいかえると、「イヤな自分」です。平穏無事に日の当たる道を歩いている間、この「影」は見えません。ですが人間は「誰かを愛する」と、この「影」と対面することを余儀なくされます。悲しいかな、愛するパートナーの中に自分が最も見たくない「影」を発見することになるのです。

「調和のとれた本物の人生を生きたいなら、絶対にこの『影』を取り戻さなければなりません」

「影」という言葉に対して暗いイメージをもつ人は多いと思います。陰気で、憂うつなものは、私たちが暮らす華やかな現代社会では最も忌み嫌われるものだからです。しかし、村上春樹の小説、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の中で「影」を失くした主人公が、「影」と「心」を取り戻すために戦い続けるように、この世で最も悲しいのは自分の「影」を失うことなのかもしれません。
 作者のエヴァ‐マリア・ツアホルストはときに厳しく、ときに優しくこの「影」の大事さを私たちに教えてくれます。私たちは自分の「影」を直視することなく、誰かを「心から」愛することはできないのです。
私自身、本書を訳している間に、この「影」の大事さに気づかされました。

「相手の最もイヤな部分に自分自身を見つけようとすれば、見失っていた自分を取り戻すことができる。これこそが、癒しなのです」

 この文を訳した夜、私はどうしても別居中の夫と話をしなければならないと思いました。私と夫は翌日、裁判所で離婚届にサインをすることになっていました。長い間頑なに話をすることを避けてきた私が夫婦最後の夜に夫に電話をかけたのです。

「愛するとは、恋することではありません。また、愛するとは、相手のそばにいることでも、相手に合わせることでも、つくり笑いをすることでもありません。愛は依存とは正反対のものです。愛は自由です。そして、ありのままの相手を受け入れることです」

 この言葉を訳したのは離婚の後でしたが、あの夜に私が夫に打ち明けたことはまさにこの言葉どおりのものでした。「相手のそばにいること」、「相手に合わせること」、「つくり笑いをしてでも笑顔でい続けること」が愛だと思いこんでいた、と告白したのです。私は知らない間に夫を傷つけていました。「本当の君の姿が見たかった」と夫からいわれてはじめて、自分の「影」の存在に、気づきました。
 自分の「影」と対面することほどつらいものはありません。ですが私たちを本当に癒すことができるのはこの「影」です。

「人生に起こる出来事はすべて、心の奥深くにある思いと癒しきれていない心の傷の存在を教えてくれているということです」。

「人生は私たちより利口です。私たちが人生の方向性を見失い、そのことに気づきながらも毎日知らないふりをし、心の声を無視した生活を送っていると、人生は必ず手を差しのべてくれます。ですが、これはいわゆる愛のむちです。逃げることばかりを考えていると、崖っぷちに立たされます。……」

 ツアホルストのこの言葉は大変手厳しいものですが、ドキッとさせられる人も多いと思います。本当の気持ちを押し殺して生きていると、いつか人生は私たちにはっきりとした形でそれを示します。その典型が「不仲」や「浮気」や「離婚」なのです。
 私は「離婚」をとおして、自分の「影」と向き合うことになりました。ですが、本当はパートナーとの関係の中でこそ、自分の「影」は真実の形で見えてくるのだと思います。だから、ツアホルストは「離婚したいと思っているカップルの七〇%はその必要はない」と主張するのです。
「影」は見ようと努力する人の前には必ず現れ、心を癒すきっかけを与えてくれます。私が自分の離婚をとおして見つけた「影」も私の心を少なからず癒してくれました。私が夫を「ゆるす」ことができたのもこの「影」のおかげです。

「男女関係の唯一の奇跡はゆるしです」

 本当の愛とは「ゆるす」ことなのかもしれません。「ゆるす」とは、ツアホルストもいうように、相手をそのまま受け入れることです。
 私は最近こんな自分の変化に気づきました。結婚前はあまりしなかったことを、するようになったのです。空を見て綺麗だと感動したり、虫や動物を大事にしたり、初対面の人とすぐに打ち解けて話をしたり……。これらはみな別れた夫の特徴です。私は結婚生活の中で知らない間に夫を受け入れ、自分の「影」と対面し、心を癒し、長い間忘れていた自分を取り戻したのだと思います。それもこれも、別れた夫のおかげです。

「愛をもって別れてください」

 ツアホルストはこの言葉を離婚する人だけに向けて書いたのではないと思います。「愛をもって別れる」覚悟があれば、二人の間にあるどんな問題も乗り越えられる、といいたかったのではないでしょうか。

「まずは自分を愛してください。そうすることで私たちは大きく成長し、世界に何かすばらしいものをもたらすことができるはずです」

 自分の「影」を「ゆるし」、自分をまるごと愛することは、パートナーをまるごと愛することと同じです。自分を愛することができる人は偽ったりしません。ありのままの自分をパートナーにさらけ出し、ありのままの自分でパートナーのすべてを愛することができるはずです。そのためには、自分の「影」を何がなんでも受け入れる覚悟を決めることです。

 最後に、サンマーク出版の橋口英恵様、リベルの山本知子様ほか、今回の翻訳を支えて下さったすべての方々に、この場をかりて感謝の気持ちを伝えたいと思います。また、この大変な時期に私を励まし、支えてくれた家族と友人、そして、スヴェンに心からの「ありがとう」を捧げたいと思います。

2013年9月
岡本朋子

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